「こんにちは~。どげんですかねぇ~?」
そう言ってGentryのドアを開けて田中サンがやってきた。
呼んでもいないのにグッドタイミング!
ちょうど切れ味の悪くなり始めたハサミが有ったので。
ハサミのメンテナンスも今まで色々なところにやってもらったけど、
田中サンの研ぎ具合が私には1番合っていると思う。
しかもこのグッドタイミング
まさか、そろそろ切れが悪くなる頃合いを予測しての・・・・・
それは解りかねるが彼は間違いなく「職人」なのだ。
ハサミを見つめるその眼差しには鋭さと優しさの両方を持ち合わせていた。
「この手のハサミはここが弱かけんねぇ~」
「ちょっと叩いて調整しとくたい」
私は言われるがままお任せしている。
「ハイっ出来あがり!!」
彼に試し切りなどの初心者じみた行為は無用。
「ここば見てんね、ホラ、少~し手前に来とろうが?」
「ほぉ~。なるほど!」
とは言ってみたものの、内心 「どこがどうなの????」
しかし、開閉してみるとその違いに驚かされる。
流石という敬う言葉でさえ失礼になるほどの職人技
「刃は研げば切れるばってん、鋏は研ぐだけじゃ切れんもんね。二枚の刃が重なり合う所に“力”がいるけんね」
彼は“刃”のみにとらわれず鋏全体のバランスをも整えてくれる。
研いだ直後の鋏は使いなれた鋏のはずだが、まるで別物かのような切れ味。
研磨師によって魂を吹き込まれた鋏は恐ろしささえ覚えるような切れ味。
持つ手に少しの緊張感さえ感じた。
田中サン、また切れ味が悪くなりはじめたらお願いします。
これからもお元気で。
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